今川祐二のハンス・エーク同行記
第7回 東京から京都へ

 

2月26日(土)

今日は京都への移動日になる。
愛宕山Tインから品川駅までタクシーに乗った。
京都には、ハンス・エーク氏、友子ハンソンさん、山岡淳一郎氏、宮坂専務理事、堀内事務局長と私を含めた6名で向かう。

新幹線の出発まで時間があり、品川駅構内のスターバックスでコーヒーを飲むことにした。
2階にある店舗は、テラスにある様な店で、風が吹き抜け大変寒かった。
各テーブルにひざ掛け用のショールが準備されていた。店のサービスは分かるが、駅の造りがおかしい。
新駅で廻りは近代的なガラス建築だがもう少し省エネ型に造れないものだろうか。冬だけの問題だろうか?夏は巨大なガラス面から太陽熱が入り、駅構内の温度を上げることだろう。
この風の流れは、夏場対策の手法かと思うほど、風が良く吹き抜けて寒かった。


▲品川駅待合所で自宅に絵葉書を送る準備をするハンス氏

ハンス・エーク氏はコーヒーを飲むと、駅構内を見学したいと言ってカメラを片手に席を立った。
出発の時間が来て、ハンス氏以下全員乗り込む。
新幹線の中、京都に同行するノンフィクション作家の山岡淳一郎氏がハンス・エーク氏に、取材をした。


▲新幹線車内で山岡氏の取材を受けるハンス氏


▲インタビューを受けるハンス氏


ホテルについて(以下ハンス・エーク氏の談)

ハンス・エーク氏の日本についての感想は、
愛宕山Tインは、外断熱はおろか断熱も無いようだし、窓ガラスもシングルガラスだ。朝、ガラス面は結露水でいっぱいだった。

窓は開閉が出来ず、そのため自由に換気もできない。空調機は、20℃が最低でそれ以下の目盛は無いのに、上は27℃まであり、温度の上昇は簡単にできる仕組みだ。
私だったら15〜16℃まで調整できる様にする。
パワーによる温風暖房は、不快であり省エネでもない。

私が最初ホテルの部屋に入ったとき、暑すぎて空調機をすぐ止めた。フロント係りを呼び、窓を開けてもらった。
フロント係りは、おかしな道具で窓を開けたので、その道具を滞在期間中、貸してもらいその後は自分で窓を開閉していた。
トイレを使うと突然温水が出てきた。
日本人は、部屋やトイレが寒いので、暖房の付いた便器が必要なのだと思った。

長野県のホテルの部屋は、温風で室内中に風が舞っていた。
食事をした大きな部屋は、廊下と部屋に入る小玄関は大変寒く、中庭側の廊下と部屋を仕切る戸の上の欄間は、開けたままだった。なぜ、寒い部屋なのに欄間をあけておくのか解らなかった。
座った床面は冷たく、立ち上がると上は異常に暑く、室内上下の温度差がすごかった。
自分の部屋はスイートルームで贅沢だったが、部屋にある内風呂は大変寒かった。朝シャワーを内風呂で浴びたが、大変寒くスウェーデンでも体感した事の無い寒さだった。 内風呂は氷の部屋だった。


東京の街の感想

さきほどいた、品川駅はひどい。
人間の温かみを感じない、非人間的な建物だと思う。
色の使い方も、メタル色や灰色が多く、近未来思考をねらったのかも知れないが、ほんの少し木を使えば、温かみがでる。
人間に近い部分、手に触れる部分にレンガや木を使うと雰囲気が変わる。

愛宕山付近を散歩したが、小さな家と大きなビルが混在して、バブルが町を造った感じがした。
日本家屋は、光と影の使い方など外国建築家が手本とする建築だ。
歴史を無くさない事も重要だと思う。

以上を述べた。


断熱ディテールについて
続いて、私が無暖房住宅の断熱について質問した。ハンス・エーク氏は気軽に応じてくれた。無暖房住宅の断熱ディテールについて質問すると、自分のノートを取り出し、詳細を書きだした。


▲インタビュー中の私


▲車内でハンス氏が描いた壁のディテール


▲屋根のディテール

各断熱部位に共通して言える事は、構造部材熱橋をどの様に防ぐかが大変重要です。
また、気密も重要です。
私が、講演で話す3つの熱移動である、(1)換気 (2)部材の熱伝導 (3)排水熱の移動 以上を考えることです。

土間床のコンクリート下部の断熱強化は、地質の違い(スウェーデンは岩盤地質)もあるが、重要なことです。
そして、なによりも設計(デザイン・構造・設備)、建築物理、施工が一体になりプロジェクトを行うことです。

と説明した後、壁と天井のディテールを書いて渡してくれた。

確かに、ハンス氏の講演では、省エネ技術の最先端を集めて造った最初の住宅が、その機能を発揮できずに失敗し、それを教訓にシンプルな機能を集約し、無暖房住宅が出来ていること。
それは3つの熱移動を考えた、ディテールの集大成であり、設計と建築物理、そしてそれを理解した施工者がいなくては結果は出せなかっただろとも言っている。

先の、スウェーデン・ドイツ外断熱視察の際に訪れたスウェーデンの木造住宅団地で見た防湿施工は、防湿層の室内側に再度木下地を設けて、内装ボードを貼るディテールとし、その中に電気配管やコンセントを配して防湿の破損を防いでいた。

北海道でも、高断熱、高気密は以前から言われているが、まだまだ施工はおろそかであり、気密については特に、ずさんさが目立つのが現状だ。
高断熱、高気密の言葉だけが先行し、気密は適度が良いとか中気密なる言葉を発する設計者もいるほどだ。

断熱の厚さについても、業界は次世代省エネ基準を目標値としているが、スウェーデン基準の半分程度だ。

窓開口を大きく取る日本の住宅で使われている窓ガラスの性能は、壁面の1/10〜3/10程度しかない。
室内エネルギーが窓から逃げている現実を消費者は何処まで理解できているだろうか。

換気もシックハウス対策により、機械換気の採用が増えているが、高性能の熱交換型換気が国内には無く、主流の第三種換気方式からは、熱エネルギーはそのまま外へどんどん捨てる結果となっている。

現在建て続ける日本の建物は、3つの熱移動((1)換気 (2)部材の熱伝導 (3)排水熱の移動)を、考えているとは思えない建物が多い。

有効活用されずに、ザルに水を入れる如く、エネルギーを放出続ける事は、これから先は許されない事はだれでも理解してると思うのだか。


京都にて

駅で昼食後、宿泊先の京都都ホテルにチェックイン後、NPOマンションセンター京都の谷垣専務理事に京都市内を案内していただいた。
最初に、京町家再生研究会の町家再生住宅を見学した。
研究会の大谷理事長の説明で町家再生の目的と意義などについて説明を受けた。
ハンス氏の感想は、『床下や壁内に断熱材を入れた方が快適に成る。最低でも200〜300mm入れた方が良い』と話し大谷理事長も困り顔だった。



▲京町家再生研究会の大谷理事長の説明を受けるハンス氏

その後、町家再生住宅内を見学し、模型や板図を見た。
ハンス・エーク氏は寸法を測る木尺を見て、『スウェーデンにも同じような物が有る』と話した。



▲屋根裏部屋の展示室にて


▲町家の軸組を描いた板図



京都市内見学

町家を後にして、タクシー2台で市内見学のため移動した。
八坂神社前でタクシーを降りる。
ハンス・エーク氏の乗るタクシーは、少し遅れていた。神社前には、人力車が客待ちしていた。
車夫に聞くと、本人は本業で引いているとの事で、観光地ならではの職業だと思った。

ハンス・エーク氏が乗ったタクシーが着き、徒歩で下河原町を進んだ。
石塀小路に入る。京都ならではの風情だ。
ハンス・エーク氏は、盛んにシャッターを切っている。
割烹の入り口際の庭や、のれん越しの店先など、日本的な雰囲気はハンス・エーク氏にとって格好のアングルだろう。
隣地間の塀を支える、つっぱり石も写真の対象になった。



▲石塀小路にて


▲ハンス氏撮影のつっぱり石


石塀小路を出て、高台寺公園前を通り高台寺の方に進んだ。
高台寺境内前で、ちょうど夕刻の鐘撞に出くわした。
ハンス・エーク氏は、しばらく鐘撞の様子を見ていた。
高台寺境内を見学した。
ハンス・エーク氏は日本の建築が西洋建築に多く取り入れられている事を、来日以来よく口にしていたが、その真髄を目の前にして感動した様子だ。
足の痛みをおして、丘陵に配置された霊屋と臥龍廊そして傘亭、時雨亭まで見学した。



▲高台寺の傘亭と手前は時雨亭


先に坂道を降り、雲居庵付近で作業をする庭師さんに庭の手入れは定期的に行っているのかと質問すると、『毎日ですよ』の答え。特に拝観者の多い季節は、散策路の小石が跳ねてそれを取り除くのが大変と聞いた。
そんなやり取りをしていたが、ハンス・エーク氏と友子さんが竹林の坂道を降りてこない。
拝観時間が過ぎ、係りの方に注意を受けた。


途中まで戻り、大声で友子さんに呼びかけると、返事があり、竹林の坂道を二人は降りてきた。
ハンス・エーク氏は竹林が珍しく、写真を取っていたとの事。三人で急いで境内を出た。


夕食時に

八坂塔の横を通り、祇園の一角にある、中華店で夕食を取った。2階にテーブルが用意されていた。
テーブルの側に、石油式反射ストーブ1台が置かれていた。
折角の中華料理が、匂いで台無しになるなと思った。夏を基準に考えている京都では、暖房設備は一時期の物としてしか考えられていない様だ。
私の向かい側には、大きな窓が床まで配され外の冷気を足元で感じた。京都の人は辛抱強いと思った。
北海道の暖房が恋しい。

食事中ハンス・エーク氏はあまり会話に加わらず、宮坂専務理事と堀内事務局長の代わる代わる紹興酒お酌に盛んに応えていた。ハンス・エーク氏も体の芯まで冷えていた様で、この時ばかりはアルコールによる内部燃焼で、体温の補給を盛んにしていた。


舞妓さん

食後、祇園内を歩いていると、舞妓さんがタクシーから降りてきた。ハンス・エーク氏も思わず顔をほころばせ、カメラを構えるが足早に店に入ってしまった。思わず『残念』と言った顔になるハンス・エーク氏。

先斗町まで歩く事になった。


▲先斗町を歩くハンス氏と友子氏

底冷えがして、完全に風邪ひきモードになった私は、足取りが重かったが、ハンス・エーク氏は元気だ。講演が続き、ハードスケジュールにも関わらず、ハンス・エーク氏はいたって元気だ。
超一流は、体力も一流だ。
とにかく寒い、赤いマフラーが羨ましい。

その時だ、先斗町に向かう交差点で、二人目の舞妓さんを発見。ミーハー的だが、一緒に写真に納まった。(撮影:堀内氏)


▲シャッターチャンス

先斗町内を抜け、安藤忠雄作の喫茶店店舗を見学する。
東京で安藤忠雄の作品見学を希望していたハンス・エーク氏にとって、わずかな希望達成だが、興味深げに作品を見ていた。
その先の、三条大橋付近からタクシーでホテルに戻った。

<次号に続く>


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